松井晴菜「看護師の価値を社会の価値に」


松井晴菜


21歳 看護学生




好奇心旺盛な21歳。聖路加国際大学看護学部4年在学中。看護学を学ぶ傍ら、医療以外の様々な分野にも興味を持ち、課外活動に積極的に取り組む学生生活を送ってきた。その中で医療と社会の間に壁があることを感じたことから、社会と医療・看護の架け橋になりたいと考え、仲間と共に医療系メディアM-Laboを立ち上げ運営を開始した経緯を持つ。現在は看護の世界をもっと多くの方に知ってもらいたいと願い活動中。高校時代には器械体操部に所属し活発な一面もあるが、普段はのんびり屋である。




Opinion#1 : 私の興味分野✕政治「看護師の価値を社会の価値に」


Opinion#2 : 若者の政治参加「興味を持たないという風潮がある」



松井さんが今関心を持つ問題はなんですか?

看護師業界でかなり以前から議論されている「准看護師制度を廃止するかどうか」についての問題です。大学に入学する前から、看護師である母と祖母からこの問題のことを聞いて興味を持ちました。実は看護師というのは「准看護師」と「看護師」の2種類存在するのです。

「准看護師」と「看護師」の違いはなんですか?

現場では両者とも「看護師」の名称で業務をしているのですが、資格の認定者と受ける教育が大きく違います。看護師は厚生労働大臣の定める国家資格で、傷病者に対して療養上の世話又は診療の補助を行います。一方で、准看護師は都道府県知事の検定試験で得られる資格で、医師・看護師の指導の下、同じ業務を行います。

現場では両者とも「看護師」の名称で業務をしているが、資格の認定者と受ける教育が大きく違う。

資格の認定者が定義が違うのに、同じ看護師として働いているのですね。
はい。病院ではどちらも同じような格好をして働いていて見分けがつきませんので、初めてこの違いを知った方も多いと思います。実際、患者さんのために施す処置が限られている個人病院などで働く場合は特に、ほとんど違いはないようです。大きな違いと言えば、准看護師は師長などの現場責任者になれず、看護学生などの教育及び指導が出来ないことです。その分給与にも違いがあります。月給で言えば数万円程看護師のほうが高いのが一般的です(都内の場合)。なので、所属部署によっては、ほぼ同じ業務をこなす看護師間で給料が違うことが人間関係のトラブルになるケースも現実としてあるようです。



教育はどのように違うのですか?
看護師は高校卒業が必須条件で、大学か専門学校で3、4年間学んだ後、国家資格を取得します。資格取得のための学習量の基準は、総授業時間数は、3000時間以上、97単位と定められています。一方で、准看護師は中卒で准看護師養成学校に入学することができます。教育は2年間という短期間で、基礎科目105時間以上、専門基礎科目385時間以上、専門科目665時間以上及び臨地実習735時間以上の講義、計1890時間以上の実習等を行うようにすることと決められています。約1000時間以上も差があります。ちなみに、准看護師制度は戦後の看護師不足の背景からかなり教育内容を簡略化して必要最小限の知識を短期間で修得し、看護の担い手となってもらうことを目的に作られた制度だということも補足しておきます。

また、学ぶ内容として、看護師は大学や専門学校で患者さんの生命と安全を守るために多くの知識や患者さん中心に考えるための系統的な思考について学びます。実習では授業を通して得た様々な知識を入れた上で、一定期間一人の患者さんと長く向き合い、看護について考えることが出来ます。一方で、准看護師は先に話したような背景から、現場で医師や看護師の指示に従う実践的な内容がメインで、看護学を習得する時間が少ないのではないか、と感じます。それを示す例として、准看護師資格を持ち看護大学で看護師資格を取得した友人が「大学教育の方が手技より頭脳的な方に重きを置いていて、考えさせられることが多いです。准看護師の養成学校では、医師が疾病治療について教えており、患者の疾患の病態のことは学ぶけど、患者さんを人間として多角的に観て生活を支えるといった看護学については学びませんでした。だから、実習先では患者さんの情報を取ってきなさい、と言われても何の情報を取ればいいかわからず、看護って何をするのか全然分かりませんでした。カリキュラムとして存在する実習をただこなすといった感じでした。」と話していました。

さらに、私の友人のように看護師の資格を取り直すために二重教育を受けている人はとても多いのも現状です。なぜなら、准看護師自身、養成所職員、病院関係者の全てが、准看護師制度の教育は不十分だと考えているという調査結果もあるからです(資料1)。准看護師は短期間で看護師になれるというメリットがあります。が、結局のところ教育が二重になっているのが現状です。


「大学卒の看護師が増えると患者の死亡率が減る」という研究結果。
看護師のケアの質は患者さんの生命に関わっている。
看護師が2種類存在し、教育内容が違うことで、何が問題なのでしょうか?3つ挙げられます。1つ目は、教育内容に違いや資格受験の授業数の基準が違うことは、看護師のケアにも差が生じる可能性があるということです(資料2)。つまり、同じ医療費を払ったとしても、看護師から受けるケアの質は担保されないかもしれないのです。ここで、病院にあまり行かない人であれば、もしかしたらどっちの看護師に看護を受けても同じだと考える人もいるかもしれません。しかし、「大学卒の看護師が10%増えると患者の死亡率が5%減る」という研究が、Linda H. Aikenらにより2003年にアメリカ医師会誌(JAMA)で発表されており、さらに同じ研究グループが欧州で追試験を行ったところ患者の死亡率が7%減るという結果も2014年に英国のLancet誌で報告されています(資料3)。准看護師制度がなくなれば患者の死亡率に影響が出るということを示しているわけではないですが、患者さんの安全を守るために看護師が一定水準の教育を受け、専門性を持った看護師が増えることが望まれています。

2つ目は、受ける教育によって離職率も違うということです。大学卒の早期離職率は看護師養成所卒に比べ1/10(資料4早期離職率=大学卒:0.56%、養成所卒:6.19%)という研究があります。現在、国に5万人ほどの看護師が足りないと言われるくらい看護師不足が深刻な問題となっていますが、看護教育は今後の医療の未来においてとても影響力があると言えそうです。

3つ目は、准看護師は就職先に限りが出ていることです。なぜこういう現象が起きているかというと、7:1の看護師の配置基準の診療報酬の改訂(7人の患者さんにつき1人の看護師の配置が一番良い労働環境が得られるため、病院がその基準を満たすと収入が一番高く得られるという内容)により、看護師(准看護師を除く)の配置が7割以上と定められ、大病院や総合病院など多くの病院がその基準を満たすために准看護師を雇わなくなったからです。せっかく看護師になったとしても働きたい場所で働けなくなってしまう可能性があり、キャリアを見据えると准看護師から看護師になった方がいいと考える人が多いようです。しかし、地方のクリニックや個人病院では雇用はあり、地域医療を支えている存在ともなっているようです。


どう解決されて欲しいですか?
まだ解決策は見えないですが、看護ケアの質の向上と看護職の地位向上ができれば、と考えます。看護師は入院生活を支える身近な存在なので、多くの人にとって無縁ではないでしょう。ちなみに、准看護師制度については、その教育制度は福井県では廃止されていますし、神奈川県でも廃止する方向性に動いています。准看護師の問題について、特に神奈川県知事の黒岩さんのブログを読めばよく分かると思います。(資料5)。黒岩さんは、元ジャーナリストで看護への理解が深い方です。もし興味を持ってくださった人がいたら、ぜひ読んで頂きたいです。

「看護の価値を、社会の価値に」
最後に、画用紙に書かせていただいた言葉について話させてください。「看護の価値を社会の価値に」は、私の尊敬する看護職の方の言葉です。この言葉には、もっと看護職が社会に自らの価値を発信しなくてはならない、という意味も込められています。

私は、ご縁があって医療ビジネスコンテストやホスピタル・アート・オブザイヤーというアートを用いて病院の療養空間を良くしようという趣旨で開催されたコンペティションに出場し最終審査まで出場させて頂いたり、日本医療政策機構でインターンの経験させて頂いたりすることができました。医療の分野以外に社会との接点を持つことは、違う分野の人の視点を知ることができるだけではなく、看護の事や医療の問題の解決手段について知り、解決方法を考えていくことができる良い機会でした。そして、その中で医療や看護についての自分の認識と他分野の人との認識の間にはどうしても壁ができてしまうということに気づくことができました。だからこそ、もっと知らないことを知りたいとも思いましたし、自分も看護について伝えたいと思うようになりました。

今回のインタビューは、看護のことを伝えることができる良い機会だと思い、引き受けさせていただきました。そして、政治の問題となると説明するのはとても複雑で、非常に難しいということを実感することができました。しかし、その難しさを乗り越えてでも他の分野の人に自分の分野のことを伝えることができなければ、自分の分野にある問題の解決は難しいのではないかとも思います。是非もっと多くの看護学生には様々な機会を活用して、看護のことを伝えていって欲しいです。そして、私もそうありたいと思っています。


今の若者は、政治に興味を持っていると思いますか?
興味を持たないという風潮が作られてしまっているだけだと思います。一概には言えないですが、興味がないというよりは諦めている人が多いような印象です。私も政治に興味はありますが、よく分かっていないことも多いです。でも、興味を持たなければ何も始まりません。政治を諦めてしまったら、極論ですが一部の人間に勝手に戦争を引き起こされる可能性もあります。命の重さを知る医療者としてそんな世の中になってはとても耐えられません。

政治に関して関心がない理由は何だと思いますか?
若者に限らず、日本は全体的に他人にお任せ主義なところがありますよね。上手くいかないのは政治のせいだ!政治が悪い!と声を張り上げる大人がたくさんいて、子どもたちはその姿を見て育ちます。つい最近まで子どもだった一人として、政治について当事者意識を持つきっかけがまだまだ足りないのが原因だと思います。高校を卒業するまで、ほとんどそれがなく、大学に入学して実際に政治関係者の方と関わってみて初めて分かることが多かったです。その機会を自分で作るしかない状況なのが、大きな理由なのではないでしょうか。


現代の日本政治を、どのように感じていますか?
身近なことで最近、投票に行けばアイスがもらえるよ!とか、企業と選挙がコラボした取り組みなどをよく見かけます。私は、投票率が上がっても、きちんと考えずに投票しなければ意味ないのではないかと思います。とりあえず投票すればいいや~って、まさにそう思ってしまいそうな自分がいて、そんな自分がとても怖いです。選挙権を18歳に下げるという話もありますが、高校生までの生活の中では選挙や政治はかけ離れた存在にあるので、多くの子ども達が投票とか政治の実際を分からないと思います。たとえば模擬選挙などの取り組みもあるようですが、選挙権を得る前から政治に関わることをリアルに感じることができる授業があると良いのではないでしょうか。

子育てする人に対する優遇も必要
今若者に必要な政策とは何だと思いますか?
こちらは医療とは離れますが、子育てに対する政策です。私は将来働きながら子育ても両立したいですが、今のままだと将来に自信が持てません。子育てしている人がまだまだ損しているように見えるからです。私は、補助金を増やすばかりではなく、子育てしていない人の税金を高くする等、子育てをする人に対する優遇はあってもいいと思います。 (※ ここでの“子育てしない人”の対象は、出産できる環境にあるにも関わらず、出産しない選択をした方のみを対象とします。) なぜなら、将来の年金を支えるのは今の子ども世代であることを考えると、子どもへの出資が多い家庭とそうではない家庭の間に税金の額の違いがあってもおかしくはないと思うからです。あくまでもこれは一意見ではありますが、今国が力を入れてきている父親の子育て参入を増やす支援を含め、これから子どもを育てる未来の母親が、子どもを産みたい!と思えるような政策が増えてほしいです。

(執筆:相川美菜子/撮影:小島眞司)

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